「史実と神話」の微妙な関係

TBS系地上波TV放送の深夜番組「映像’20」を録画して観ました。8月31日のテーマは「史実と神話～戦後75年目の教科書と歴史～」（60分）で、育鵬社の公民／道徳の教科書採用を巡る問題を中心に、日本書紀の「神話」から近世の偽文書、明治期の天皇陵墓の治定の問題まで、盛り沢山の内容でした。

今話題の『椿井文書』の著者、馬部隆弘氏が最初に登場し、後の方では、考古学の今尾文昭氏による「神武天皇陵捏造」問題の解説もあり、多角的な視点で歴史認識の難しさについて解説があり、良心的な編集でした。ただ、多様な問題を詰め込み過ぎて焦点がぼやけた印象もあり、もう少し教科書の歴史認識／記述／採択方針・過程にテーマを絞った方が分かり易かったかなとも思います。

気になったのは、ある神社の宮司さんが、日本書紀の記述を全て事実と認めた歴史観により、声高に、「万世一系の国家論」や「教育勅語の礼賛」を口にしていたことです。このような歴史認識を固守している人達に、通説の「神話伝承は捏造されたもの」といくら言っても、水掛け論になり、相互理解の契機は得にくいと思われます。「神話伝承」を無碍に否定せず、尊重しながら、科学的な歴史認識を理解・納得してもらうには、どうすれば良いのか、考慮する必要があるでしょう。（編集子自身は、「神武天皇」は実在したと考えていますが、その「即位元年」が紀元前660年とは思っていません。）

この番組を観ても改めて感じましたが、私達が「日本の永年の伝統精神、伝承儀式」と日頃漠然と思っている物事も明治期に創られた“擬古の新式”である場合が少なくないということです。個人の感覚（常識）も今までの教育やマスコミによる報道で形成された根拠薄弱な先入観や思い込み（偏見）ではないかと、良い意味で疑う健全な懐疑精神が求められているのだと思います。本当に教育は国の未来を左右しますね！　戦前の不幸な歴史を繰り返さないためにも身近な処から教育に関心を持ち、出来ることから行動してゆかないと、と想いを新たにしました。（S.T.)

#歴史 #科学 #時事